(5)セクハラとパワハラにまみれた夜
私は人当たりの良い性格だ。
大抵の人間とすぐに打ち解けることができて、そこにお酒がある時は尚更だった。
下ネタを平気で話し、大口を開けてバカ笑いする自分の開けっぴろげた性格が嫌いでは無かった。
学生時代そういう女は大概モテ無いのだが、どうやら社会に出ると余程醜い容姿を持っていない限り、下ネタを話す女は性的な目で見られるらしい。
加えて、下ネタを会社では言ってはいけないという決まりが社会にはあるらしい。
始発まで阿保みたいに酒を飲んで、生殖器の名前を大声で連呼していた連中は、誰に教えられることもなく社会に出た翌日から、慎ましく上司に酒を注ぎ始めたと聞き、耳を疑った。
私にだけ、誰もそうしてはいけないと教えてくれなかった。
不幸なことに、社会に出る前に、インドに出てしまったためその影響力は絶大だった。
インドに赴任してから、会社内での飲み会に何度か参加した。
会社といっても、校長含めたインド人3人と心底嫌い女と私の5人だ。
後に分かるのだが、心底嫌い女と校長は結婚を前提に交際していた。
そんなこととは露知らず、例のごとく私は酒を浴びる様に飲み、下ネタに乗り、大口を開けて大笑いをしていた。
インドでは宗教上、婚前の性交渉はタブーだ。
その日の話題は、結婚後セックスの相性が悪いことが判明したらどうするのか、という内容だった。
入学を検討している生徒には、入学前に私がトライアルクラスでひらがなを教えていたこともあり
「トライアルクラスでセックスを教えたら入学希望者増えるんじゃ無いっすかねwwwww」と、
前任者の淫乱教師の愚行を暗に感じさせる、本当に品が無い低俗なジョークを飛ばしてやった。
酒もかなり入っていた為、場が異様に盛り上がった。
話を戻したい。
日中は授業に追われ、飲み会で下ネタを話すくらいしかこの1ヶ月社長との接点はなかったのだが、ここに来ての「一緒に飲みましょう」の誘いだった。
社長の家に到着すると、BBQの骨つきチキンやマトンケバブなどヨダレが出る料理が並んでいた。精神崩壊一歩手前の私にとって、ソレ等は目が眩む。
どうやら、淫乱教師の後釜として、生徒から何か嫌がらせを受けていないか心配して夕飯に招待してくれた様だ。
淫乱教師の影響といえば、配布された社用携帯が淫乱のお下がりだった為
生徒から「休みの日に、会いたいです」等のカワイイ連絡が入るくらいで、恐れていた様なことは何も起きていなかった。
淫乱と私との差は、容姿だ。
淫乱の顔は美しく、長くて緩やかなウェーブかかった髪を持っていた。
一方私は、ベリーショートで襟足を刈り上げた男の様な髪型をして、いつも大口を開けて笑っていた為、性的対象にはならなかった。
だがそれは、生徒に限ったことで、40代のインド人には私がドストライクだった様だ。
心底嫌い女と付き合っているという告白や、最近うまく行っていないという相談に始まり
私はカワイイ、もっとこういう服装をしたら似合うなどの賛辞を受けた。
終いには、「好きになってしまった」と告白を受けた。
誰も頼る人がいない異国の地で、ボスから告白を受けた場合なんと答えるのが正解だったのだろう。
性的対象として見られることに慣れていない私は、事もあろうか咄嗟に「ありがとうございます」と答えてしまった。
校長は満面の笑みで「知ってる」と答えた。
「東京で初めて会った時、改札を抜けてから振り向いて手を振ってくれたでしょ。あの時から両想いだって気付いていたんだよね。」
頭の中で警報が鳴り響いた。「キケン!!!ニゲテ!!!!」