酒癖悪美の酒の失態集

インドで3年働いた体験を盛大に盛りながら綴ります。

(19)とんでもない会社に入社したとんでもない悪美

日本でビザを取り直し、2週間ほどでインドに戻った。

 

前回はワキガのインド人に囲まれて、ゴキブリが機内食に混入しているエアインディアを利用したが

今回は会社がANAの直行便を予約してくれた。

 

乗客はほぼ日本人のビジネスマンでワキガではなく皮のにおいをさせていた。

 

インドへ単身で向かうのは学生時代含めて3回目なので、特に高揚感も無かった。

慣れきった所作でパスポートを提示したところ「お前、インドビザ3枚目か」と入国審査官にいじられつつ、無事にイミグレーションを突破した。

 

予定ではインド空港に到着すると、友人Nが待っていてくれる筈だ

辺りを見渡してもそれらしき人物は見当たらない。1,2分きょろきょろしていると、友人Nの同僚KとGが現れた。

 

友人Nはどうやら酔いつぶれているらしく、代理で私の出迎えに来たらしい。

インドのキャバクラで飲んでいるので、そこでNと落ち合うと言う

 

キャバクラに到着すると、そこには私の知らないインドが広がっていた。

 

インド人の女性が、ひざ上20cmの真っ赤なスーツを上下着用し日本人男性を相手に破廉恥な接客をしていた。

 

胸を触られると「ダメ~、ダメ~」と言いながら、指先でバッテンを作りサラリーマンの顔に押し付けている。

 

日本でもキャバクラに足を踏み入れたことの無かった私は、インド空港に降り立った時より興奮していた。

 

店の奥でNを発見した。

今後私の上司になるSさん、クライアントであるAさんと3人で飲んでいるようだ。

 

Nは全身をAさんにあずけ、サワーオニオン味のレイズをエンドレスでAさんの口に運んでいた

 

Aさんは無表情でレイズを咀嚼しながら、Nの胸をもんでいた。

上司Sさんは感情が抜け落ちた、人形の様な顔で、部下が胸を揉まれるのを眺めながらウイスキーを飲んでいた。

 

地獄だと思った。

 

私がNの前に姿を現すと

「てめー、なんでここに居るんだよ!」とどすの利いた声で罵り、急に立ち上がり私の尻に2発蹴りを加えた。

 

そのままよろめき、Aさんに倒れこむと脚をAさんの太ももの上に投げ出して眠った。

Aさんは何事もなかった様に、Nの脚を触り始めた。

 

これから会社の仲間になる私に対して何の興味も示さない、同僚KとGはカラオケに興じていた。

 

飲まなければこの環境を楽しめないと思い、ほぼウイスキーの水割りを作って一気に飲み込んだ。こういう時、地獄を一瞬で天国に変えてくれるお酒はやっぱりやめられないと思った。

 

すると、隣のテーブルから叫び声が聞こえた。

悪酔いしたサラリーマンが、嬢の体を必要以上にタッチした事で嬢が激怒した様だ。

すると、全く関係無いテーブルに座った50代後半のおっさんが

「お前誰に許可とってこのクラブで騒いでるんだよ。オレが誰だか分かってんのか。○干支会の会長だぞ!!」と怒鳴った。

 

鳥だが、猿だが、羊だが、どうでもよすぎて覚えていないのだが、当時流行っていた「斉藤さんだぞ!」的なノリだと思い、ポカンとしながら傍観していた。

 

すると、驚いたことに先ほどまで悪酔いしていたサラリーマンが気まずそうに

「○干支会の会長さんか......マズイな」という様な事を仲間たちと耳打ちし

会長さんに謝罪をしたのだ。

 

後に嫌という程体感するのだが、インドの日本人社会は反吐が出るほど狭く息苦しく粘着質だった。

皆、○干支会や昭和○年生まれ会、○大学OB会などに所属して帰属意識を必死で得ようとしてた。そして、その会の会長には結構な影響力があり、その影響力をビジネスを持ち込むことも多々あった。

 

コンプライアンス違反、カルテルが平気で行われていた。

 

なので悪い酔いしたサラリーマンは○干支会の会長さんに逆らえなかったのだ。

 

そして、日系企業と殆ど関らないインドマーケットだけを相手に

ビジネスをしているAさんに怖いものが何も無かった。

46時中キレる対象を探している様な怒れる男性だった。

 

上司Sさんがカラオケで尾崎豊を歌っていた時、遠くのテーブルに座っているサラリーマンが歌には興味を示さず同席者と笑いあっていたのが気に食わなかった様だ。

 

「あいつ、Sの歌笑ったな。ちょっと絞めてくるわ」という様なことを言ってトイレに立った。

 

その辺りから私も酔いが回り記憶が曖昧なのだが

数分後私が店の外に出るとAさんが笑っていたサラリーマンの胸ぐらを掴み「てめーSの歌笑っただろ!!!!!」と今にも殴り飛ばす勢いで叫んでいた。

歌を笑われた上司Sさんは、「俺たち客商売なんでやめてください」とニヤニヤしながら止めていた。

サラリーマンは訳もわからず「知りません!!!」と必死で応戦していた。

 

とんでもない会社に入社したなと思った。

 

 

 

人の喧嘩を見たのは久しぶりだったので私も興奮してしまった。

 

午前二時ごろ店を出て、5人乗りの乗用車に5人で乗り込んだ。

私は後部座席から上司を羽交い締めにして

「やらせろ!!!!!!!!!」と叫んでいた。

 

とんでもない奴が入社したな、と皆が思っていた。