酒癖悪美の酒の失態集

インドで3年働いた体験を盛大に盛りながら綴ります。

(10)アナタは今まで、自分の発した下ネタがWordでテキスト化され、会議室で上司に見せられたことがありますか。

目の前に、角を揃えて規則正しく置かれた二枚の書類を前に

背筋が凍りつき、脇の下からジワリと汗が滴るのを感じた。

 

女の帰国から数日経過しても一向に返事が無い為、

辞表に関して催促のメールを出した翌日

退職について面談をしたいと、校長に会議室に呼ばれた。

 

会議室に着席すると間髪を容れず二枚の書類が差し出された。

 

一枚は英語、直ぐに内容は理解できなかった。

 

もう一枚は日本語、

 

「トライアルクラスでセックスを教えたら入学希望者が増えるのでは無いか。」という提案を受けた。

 

明朝体の文章が目に飛び込んだ。

 

どうやら、日英対になっていてもう一枚の書類では「トライアルクラスでセックスを教えたら入学希望者が増えるのでは無いか。」がご丁寧に英語化されている様だ。

 

それ以外にも、私がこの数ヶ月間で発した軽口が

親切に日付と時間付きで全てテキスト化されていた。

 

身から出た錆とはこのことか。

健全な日中の校舎で改めて突きつけられたその「提案」は、本当に下品で目を覆いたくなるものだった。

 

血の気が引くのを感じ、一瞬意識が遠のいた。

 

 

人生で一度だけ気を失ったことがあるのだが、その時に似た感覚だった。

 

16歳の時。

動物看護師になりたい友人に付き添い、動物看護専門学校オープンキャンパスに参加したときのこと。

 

犬の診療見学、トリミング見学が終わり、最後にチワワの睾丸摘出手術の見学に案内された。

 

「たまに気分が悪くなる方がいますが、遠慮せず申し出てください。」案内人よりそう告げられて、手術が始まった。

 

先程まで元気に走り回っていたチワワが、茹でガエルの如く引っ繰り返り金タマがえぐり取られて行く。

 

不調を申し出る余裕もなく私は意識を失い、次の瞬間

手術室で引っ繰り返る茹でガエルは2匹になった。

 

 

そんなどうでも良いことを思い出しながら、校長が主張を始めた。

 

「この数ヶ月間、あなたから様々な性的発言を受けていて、自分は誘われていると思った。

その好意に応えるため、告白をしたのであって、自分に一切非は無い。」

 

という様な、内容だったが詳しくは覚えていない。

 

色を失っていた私の頬は、全身の血液が顔面に流れ込んだ様に真っ赤になった。

 

今思えば、書類を細かく確認して

「この発言をしたのは、話題の中であなたが先にこういう発言をしたから。」と

自分を擁護して書類の正当性を否定することは容易だったが

 

当時の私は、恥ずかしくて、情けなくて、テキスト化された自分の愚行全てに目を通すことができず、俯いてしまった。

 

あんなに純粋な目をして20歳も年が離れた部下に「好きになってしまった」と言っていた男が

裏では自分を守るための証拠を記録していた、何とも狡猾な人間だったのだ。

 

 

「ボスに求愛されている為、退職したい」という私の主張は真っ向から否定され

退職理由は自己都合の無責任な退職として扱われることになった。

 

 

絶対に世に出して欲しくない書類を握られてしまった私は

この男の仕掛けた罠に堕ちていった。