酒癖悪美の酒の失態集

インドで3年働いた体験を盛大に盛りながら綴ります。

(12)酒癖悪美の宿敵現わる

一刻も早くこの学校から脱出したい私は

辞表を出した日から、転職活動を水面下で開始していた。

 

知人のツテを辿り、インドにある日系転職エージェントの担当者を紹介してもらい

スターバックスで面談をしてもらうことが決まっていた。

 

14連勤明けの私にとっては、スターバックス=ディズニーランドと同格だ。

 

 

指定されたスターバックスがあるショッピングモールは、私の住んでいる所からかなり離れていた。

行き方を調べると、1時間メトロを乗り継ぎ、更にメトロを降りてからリキシャで15分移動しなければならないことが発覚した。

 

ディズニーランドには開園前にスタンバイしておくのが常識だ。

約束の時間の3時間前には家を出ることにした。

 

翌朝待ち切れない私は4時間前には家を出た。

 

予定通りメトロを乗継ぎ、最寄り駅に到着したところでリキシャドライバーと料金交渉を試みたが

私の住んでいる田舎町と都会では勝手が違う様で、恐ろしく高い値段を提示された。

 

私はこの後久しぶりのスターバックスで思いっきり楽しむのだ。

こんなところでお金を無駄にすることは出来ない。

 

リキシャではなく、他の方法でショッピングモールに辿り着く方法を探し始めた。

 

 

すると、リキシャ乗り場から少し離れた場所で、

茶色く、サビついているバスから男が身を乗り出して、

私の行きたいショッピングモールの名前を大声で連呼していることに気づく。

 

急いで駈け寄り、ヒンディー語で幾ら?と尋ねる。

すると男は「パンチ ルピー」と言った。

 

パーンチ!!!

5ルピーだ!!!!

 

あいにく10ルピーしか持っていなかったため、「お釣りをくれ」と10ルピーを差し出したが、今はないから後ほど払うという様なヒンディー語を言っている。

 

「チェンジ!レーター!お釣り!後でね!」と念押しして一目散に薄汚いバンに乗り込むが

車内の様子がおかしいことに気づく。

 

鼻をえぐるような得体の知れないニオイが充満している。

真っ黒で痩せ細ったインド人10名程の鋭い眼光が一斉に私に注がれた。

 

子どもが2,3人は入る様な白い麻の袋を2つ背負っている老人と老婆

鼻ピアスを両鼻にした殆ど裸の子どもを抱く婦人

ゴミ掃除が着るユニフォームを着た集団

 

1日1ドル以下の生活を送るインド人オールスター感謝祭へ迷い込んでしまったのだろうか。

 

いや、よく考えたら私も最近はめっきり1日1ドル以下の生活を送っているではないか。同じ穴のムジナ、怖がることはない。

 

スカーフで顔を隠して俯き、鼻をつまみながら

ただこのバスが1秒でも早くショッピングモールに到着するの祈っていた。

 

ショッピングモールが近づき、まだお釣りをもらっていない事に気が付いた。

殆ど満員になっている車内を掻い潜り急いで先ほどの男のところに駆け寄る。

 

私「お釣りを返してください」

男「gんs;rhぎおれhqgr」j!(ヒンディー語で喚く)」

私「マネー!!!!パーンチルピー!!!マネー!!!金返せ!!!!」こちらも負けじと喚く

男「iOSdphぎおjgj」qpkgq@lgじょdsw!!!!!!!!」更に強めにヒンディー語で喚く

 

このやり取りを傍観していた少しだけ英語の話せるゴミ拾いの青年が近寄って来て、私に教えてくれたのだ。

 

青年「彼はお金を持っていません。彼は車掌ではありません。」と。

 

どうやら私はただの乗客に「金を返せ!」と突然因縁をつけて騒ぎ立てていた様だ。

 

逆の立場だったら恐怖である。

日本でバスに乗っている時、日本語がわからない外国人が突然現れて

金を返せと喚くのだ。

 

だが、1日1ドルのオールスター達はあまりにも姿形が似ていて、区別がつかなかったのだ。

仕方ない。

 

車掌はそのやり取りをニヤニヤとしながら見守っていた。

 

 

 

何はともあれバスは到着した。しかし、到着した場所は正面玄関ではなく

ショッピングモールの業者専用の入口だった。

 

どうやらメイドを乗せたバスに乗り込んでいたらしい。

 

メイドに日本人の恐怖を植え付けたところで別れを告げ、

彼らはゴミの分別へ、私は約束の時間2時間半前にスタバに着席した。

 

 

 

スタバを指定してくる様な担当者なのでさぞかしやり手なのだろうと

要らぬ妄想をしながら、普段の食事代の20倍はするマフインとフラペチーノを楽しんだ。

 

担当者は時間より少し前に現れた。

 

スターバックスが似合う若くてキレイな女だった。

後に意気投合し、チャイニーズマフィアとの死闘を見守った友人Nだ。

 

若くてキレイな女に会うとやっぱり自分の巻いているスカーフが恥ずかしくなるのだが

外すタイミングを逃してしまい、恐るおそる自己紹介をはじめた。

 

女はふんふんと話を聞きながら、ちょうどいいタイミングで質問を挟んできたりして、ヤリ手だった。

 

そして最後に女が「私、あなたと1才しか年が変わらないんです」と申し出てくれたおかげで

すっかり私は心を許してしまい、その夜に馴れ馴れしく「お酒を飲みにいきましょう」とメールを送っていた。

 

数週間後、女との初めて飲み会をするのだが、その女は私と同じくらい恐ろしく酒癖が悪かった。

 

私はインドで最高の仲間を見つけてしまったのだ。