酒癖悪美の酒の失態集

インドで3年働いた体験を盛大に盛りながら綴ります。

(16)合法ドラックとサライ

校長との関係性はかなり改善されてきていた。


理由としては大きく4つ。

1つ目、朝食のサンドイッチを作ってくるようになった。

7時からの早朝授業がある日は、6時半に私を社宅まで車で迎えに来て

その後自宅に戻りサンドイッチを作り、授業後に手渡してくる。

献身的な嫁である。


2つ目に、昼食のカレーを買ってくるようになった。

それも、普段私が食べているような屋台の50円程度のカレーではなく

レストランへオーダーした美味しめのカレーだ。


3つ目に、帰りの送迎時にレストランに寄り夕食も買い与えるようになった。


4つ目に、数万円する皮のローファーを買い与えてきた。

授業中生徒に、形容詞を使った例文を作らせたときに

「先生の靴は汚いです」と言われていたのを聞いていたのだ。


(それを聞いて、他の生徒が「先生はいつも同じ服です」と言ったのも

聞いていてくれたら良かったのに)


万国共通男は、女には飯とモノを与えれば良いことを知っているようだ。


20歳以上年上のきもいおっさんに告白され、閲覧履歴を監視され

パワハラ的に仕事を増やされていたにも関わらず

例外なく私も飯とモノでコロっとおっさんに心を開くようになった。


関係性がかなり回復してきたころ、インドの色かけ祭りホーリーがやってきた。

お祭り当日は、ペンキが入った水風船を誰彼構わず当て付ける基地外じみた祭りだ。


お祭り1週間前から街中が浮き足立つ。一人で外を歩いていると

ベランダからクソガキに水風船を何度も投げつけられた。

外人は標的になりやすい。ベタベタに濡れた私の髪の毛を見て、

ゲラゲラ笑うクソガキを捻りつぶしたい欲望にかられながら

私は無言でその場を立ち去った。


祭り当日はもっと悲惨だ。

歩いていると、通りすがりのバイクに乗った男が

急にペンキの入った水風船を投げつけてくる。

時速60kmで風船を投げつけられると普通に痛い。

私がお前に何をしたというのか。だが、今日はペンキをかけられて

怒った奴の方が頭がイカレていると思われるのだ。

人に水風船を投げつけて喜ぶインド人とは一生分かり合えないし、分かり合いたくも無い。


学校へ出勤すると、教室の入っているフロアの上に住んでいる

また別のクソガキがベランダでニヤニヤしながら待ち構えている。

風船ではなく、バケツに大量のペンキを用意して

それを私に頭上からお見舞いしようとしている。

I have Laptop!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ノートパソコン持ってまーーーす!!!!!!!!!!!

と、雄たけびを上げながら建物に逃げ込んだ。


パソコンは何とか水没を免れたが、ジャケットはペンキまみれになった。

それでも今日は怒ってはいけないのだ。信じがたい。


お祭りの日、授業は休みだったので私はゆっくりと事務作業をしていた。

そこに校長から連絡が入る。


「私の家でホーリーのパーティーをします。

色々な人を招待しているので、良かったら来てください。」

というような内容だった。


朝からペンキをかけられて苛立っていた私は、

どうしてもインド人に水風船を投げつけたい気持ちを抑えることができず

校長主催のパーティー参加を決めた。


校長の家に着くと、そこには校長しか居なかった。

色々な人を招待しているのは事実だったが、

色々な人は軒並み返事をよこしていないようだ。


朝からニワトリを丸ごと購入して、台所で解体した形跡の残る血だらけのシンクと、

50個以上の水風船が用意されているベランダを見て

心からこの誰からも相手にされない40代のインド人を不憫に思ってしまった。


私は誰からも相手にされない人間にとことん弱い。

今日一日、この不憫な校長を少しでも楽しませようと決めた。


近所の小学生を家に招きいれ、

道路を歩くインド人めがけて水風船をベランダから投げつける遊びを始めた。


「やめてくれ!!!!大事な書類を運んでいるんだ!!!」と叫ぶ

サラリーマン風のインド人めがけて、容赦なく水風船をあてつけた。

最初は背中に当たったが、3球目が男のカバンに命中して見事書類を濡らす事に成功した。

とんでもない快感だった。

私の中のインド人が目を覚ました。


校長とペンキを掛け合い、チキンを食べて、ビールを飲んで

それなりに楽しかった。


そこで校長は、ホーリーの日は元気になる草を噛むのがインドの伝統だと言いはじめた。

その草は合法で、ホーリーを盛り上げるために殆どのインド人が草を噛むらしい。

私の中のインド人が目覚め始めていたので、元気になる草を試してみることになった。


車で草が購入できるマーケットに行き、校長は草を2つ購入し

二人同時に草を噛んで車に乗った。


ものの5秒で私の中の世界が渦を巻きはじめ、渦が胃を直撃する。

そのままトルネードの様に胃の内容物が突き上げられて

ものすごい勢いで車の窓からゲロを吐き出した。


校長はそれを見て「ヒャッハーーーーー!!!!!!!!!!!フォー!!!!!!!!!」などと

雄たけびを上げて、ハンドルをぶんぶん回しながら車のスピードを加速させる。

香山雄三のサライを驚愕の大音量で流し始めた。


今度は全身が震え始める。震えながら、猛スピードで走る車から頭を出して

白いゲロを死ぬほど吐いた。


雄三「さくらーふーぶーきの サライーの空はー」

私「ゴボゴボゴボゴボ(ゲロ)」雄三「サライー」

校長「ひゃっほーーーーーーーーっい!!!!!サライヒャッホーイ!!!!!!!!」

私「ォエエエエエー」

地獄絵図


この草が合法だというのなら、インドとは一生縁を切ったほうが良いだろうと

朦朧としながら考えていた。


校長の家に到着し、私は足を絡ませながらソファーに倒れこんだ。

その上に校長が襲いかかってきた。


何度もゲロを吐き出すまねをしてトイレに逃げ込んだ。

トイレで立て籠もっていると、悪かったと何度も外から謝る声が聞こえた。


私は「社宅に帰らせてくれ」と懇願した。

前に書いたが、校長は家の外でドーベルマンを飼っているため

勝手に帰る=犬に噛み殺されるのだ。


「家まで送っていく」と寂しそうな声で回答する校長を信じて

扉を開けて、無事に社宅へと生還した。


人生で一番散々な日になった。