酒癖悪美の酒の失態集

インドで3年働いた体験を盛大に盛りながら綴ります。

(13)監視されている

授業が終わると、校長から「転職活動しているね?」と声をかけられた。

何故こいつはそんなことまでお見通しなのだ。エスパーなのか。



社宅の鍵はこいつも持っている。

私の授業中、無断で侵入されることも想定して

転職活動に関する証拠は全て鍵をかけてクローゼットに入れている筈だ。


こいつはまさかクローゼットの鍵まで持っているのか。


それとも私の個人PCを勝手に盗み見しているのか。


その日は家に帰り、PC本体のロック、Gmail,Facebook,TwitterありとあらゆるSNSのパスワードを変更した。



数日後、社宅のWifi接続が急に不安定になった。繋がったり、途切れたりを繰り返す。


家にテレビは無かった。インターネットだけが門限7時の私にとって唯一の娯楽だった。


2,3日は日本から持ってきた本を読んで過したが、夜寝る前にどうしても家族や友達と連絡が取りたくなる。


4,5日して読む本が無くなると、「無」が訪れた。

幸い私の住んでいた社宅の窓には鉄格子がかかっていたため

なんだか自分は本当に悪いことをして、ここに連れて来られた様な錯覚に陥った。


社宅に帰るのが憂鬱でたまらなかったが、夜7時に帰ることが義務付けられているため

帰るしかなかった。


社宅の扉を開けると待っているのは「孤独」しかない。


ため息をつきながら、ドアをあけると私のベッドの上で2匹の鳩が交尾をしている光景が

視界に飛び込んできた。


夢中で互いの体をこすり合わせながら、飛んでは落ち、飛んでは落ちを繰り返しながら

私のベッドの上で羽根を振り乱しながらバウンドを繰り返している。


どうしようもない怒りが腹の底からこみ上げてきた。


私はこれからこの鉄格子の中で朝まで無の時間をやり過ごすというのに

この小汚い鳩たちは、一人で寝るにはあまりにも大きすぎるキングサイズベッドの楽しみを

私より先に享受しているというのか。



血相を変えて、近くにあった箒を振り回しながら

「でていけえええ!!」と雄たけびを上げながら鳩に襲い掛かる。


その状況が逆に鳩を燃え上がらせてしまったようで、先ほどより激しくバウンドを始めたかと思うと

急に2匹が静止した。


終わりが近かったようだ・・・



あんなに燃え上がっていたというのに、冷静になった雄鳩は身なりを整えて

最後に「ぺっ」と灰色のクソをして飛び立っていった。


気まずそうに私に一瞥をくれると、雌鳩も雄を追って飛び立って行った。


鳩も人間も終わると冷静になるというのは同じらしいが、鳩は絶頂の後にクソをするという事実は初見だった。


涙ぐみながら、ベッドシーツを新しいものに交換したが

ベッドを汚されたことよりも、鳩に先を越されたことが屈辱的で耐えられなかった。


酒のストックが無くなった最近は、腰を振り回すゲームをノンアルコールで楽しめるようになっていたのに。




翌朝、耐え切れずに校長のところへ相談しに行った。

社宅で契約しているWIFIの調子が悪いので、業者に確認してほしいと依頼した。


夕方、校長に呼ばれた。

そこには使用しているデータ容量と、無数のURLの羅列が載った紙だった。


校長から、私がネットを使いすぎていることを指摘された。


そして、「こんなサイト見ているんだね」と言われた。


無数のURLの羅列=私が今月閲覧したサイトのURL だったのだ。


契約者がプロバイダーに問い合わせると、閲覧履歴を公開することなんて知らなかったし

確認できるのなら社宅のWifiを使って、辞表の書き方なんて調べたりしなかった。



勿論そこには転職サイトも含まれていたし、勝手に上司に見られたら60%位の人間が死にたくなるサイトも含まれていた。


心の中で「殺す殺す殺す」と呟いていた。


こいつはいくつ私の弱みを握れば気が済むというのか。

そして、一体いつからこいつは私の履歴を確認していたのか。



一刻も早くこいつの元から逃げ出さないと大変なことになるとあせり始めた。


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